「ぼくたち友達だね」

 息子のアトリエDAY。いつも一緒のRくんと今日は二人きり。二人はそれぞれの惑星で、別々の創作をしていた。Rくんは息子よりちょっと年下っぽい。よく話す天真爛漫な感じの男の子。他のお友達とも自然と意気投合していくタイプ。

 息子は誰がいても、いつもマイワールドの住人。誰にも影響されず、自分が作りたいものをひたすら作っていく。そんな息子に、少し前から変化が見られた。Rくんと別の子が楽しそうにおしゃべりしながら創作しているそばに近づき、なんとなくそばに居た。自分の目的であるひらがなの粘土作品を手の平でこねこねしながらも、Rくんたちの楽しげな世界に一歩足を踏み入れたように見えた。

 そして今日。Rくんと二人きり。それぞれの創作をする時間が45分くらい続いていた。Rくんが絵の具でお絵描きを始めた。イーゼルに立てかけた大きな紙に、一つ二つとRくんの絵が足されていく。私がアトリエの先生と話しているその時、「あっ!」と声がした。声の方を見ると、突然息子がRくんの描きかけの紙に、橙色の◯を描いたのだった。

 固まるRくん。固まる大人たち。このコラボレーションは歓迎されるものなのか否か?先生がRくんに「◯◯(息子)と一緒に描きたかった?それとも描かれて嫌だった?」と聞くと、後者の時にRくんはこくりと小さく頷いた。筆を持ったまま事態を見つめている息子。いけないことをしてしまったらしい、と思っているようだ。

 「Rくんに「一緒に描いてもいい?」って聞かないといけないんだよ。いきなり人の作品に描いちゃダメなんだよ」と私が話した。息子は無言で洗面台へ行き、手を洗い出した。気持ちを洗い流しているようだ。

 Rくんはしばらく絵を見ていた。そして「うん。いいよ!一緒に描こう!」と元気よく言った。息子の方を見て「◯◯ちゃん、一緒に描こう!」と言った。息子はタタタッと戻ってきた。二人は笑顔で筆を持ち、そこから芸術の大爆発がスタートした!

 


 もはや言語は必要なく、筆という道具も必要なく、手に絵の具をつけ、手の上で色を調合し、作品が作られていった。途中、「野生に還るぞー!」と言いながら胸をドンドン叩いたり、四つ足で走るような仕草をするRくん。一心不乱に手の上で色を調合しては紙にスタンプし、手を洗い流してまた次の色を調合する息子。何も考えていないように見えて、不思議な色彩のバランスが取れているのだった。




 紫や青ベースの手形をひとしきり付けた後、終盤に赤、黄色、緑といったカラフルな色を加えて、全体が締まったような印象を受けた。



 見ている大人は圧倒されて、ものすごいパフォーマンスを見せてもらっている気分だった。解き放たれた二人。アトリエの先生が、「プリミティブアートみたいね」と呟いた。プリミティブアート。原子美術。未開美術。アウトサイダーアートという言葉は、どこかで聞いたことがある。先生の言わんとすることは私にも分かった。二人が本能的な部分で描いていることが伝わってきた。

 二人のエネルギーは自然と収束していき、終わりの時間を迎えた。Rくんが別れ側に何度も息子にバイバイをしてくれた。そして、「ぼくたち、友達だね!」と言ってくれた。嬉しかった。Rくんの言葉が一粒の水滴となって私の心に落ち、波紋が広がって、じわーっと温めてくれるようだった。

 いつだったか、幼稚園の主任の先生が言ってくれた言葉を思い出した。「小学校低学年のうちは苦労するかもしれないけど、変わってると言われるかもしれないけど、そのうち気の合う友達に巡り合って、その子と世界を共有していけるんじゃないかな」。そんな風に言ってくれた。

 友達だって。嬉しいね。友達だって。嬉しいね。

 アトリエから帰る足取りは軽く、心も軽く、スキップしたい気持ちだった。

 Rくん、出会ってくれてありがとう。


365日の展覧会

はは、むすめ、むすこのアートな日々

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